イスタンブールの奇跡はフットボールにどんな影響を及ぼすのかという話と、クロップからの人生の学び。

 

 

会社に大変サッカーが大好きな先輩がいます。

どれくらい好きなのかというと、リバプールのためにイギリス留学をし

プレミアに魅せられまたロンドンに住み、エバートンを一年間ウォッチする、という

フットボールという文化」ごと、サッカーを愛している方でして。

 

 

その先輩はリバプールがいちばん愛するチームだということですが、はい、

CLセミファイナル、すごかったですね。ほんとうにすごかった。

 

1st Legバルセロナのホーム・カンプノウ0-3と完膚なきまでに葬り去られたリバプール

アウェーゴールも奪えず、決勝進出への条件は、3点決められたバルサ相手に無失点かつ4点をもぎ取ること、

1点でも失点があった場合には、5点差以上をつけての勝利という条件。

ちなみに「無失点かつ4点差以上の勝利」もしくは「5点差以上での勝利」の条件を満たした試合、

2018年のJリーグでは4試合でした。確率は0.006%です。

2018J1 578試合のうち条件を満たす試合は4試合)

 


【UEFAチャンピオンズリーグ|ハイライト】UCL史上最大級の逆転劇!アンフィールドの奇跡| リヴァプール(イングランド)×バルセロナ(スペイン)|準決勝 2nd Leg

 

 

なにがリバプールの奇跡を可能にしたのだろうか。というか、5/2アンフィールドで起きたあれは、なんだったのだろうか。

リバプールファンの先輩から「ちょっと冷静に振り返られないので総括しよう」とお誘いがあり話したことをまとめておきます。

 

 

 

サッカーの意味合いでの振り返り

 

フットボールの潮目が変わるビッグマッチ」というようなものがあります。

サッカー界全体の戦術やトレンドの流れが変えられるような一戦です。

 

リアルタイムで見たもののなかでそれに該当するなあと感じる試合は2試合です。

直近のものでいうと、2014年のブラジルW杯、グループラウンドのスペイン×オランダ戦。

 

前回W杯、また2年後のユーロを制し絶頂を迎えていた、

シャビ、イニエスタにシルバやビジャ、セスクなどを擁する攻撃陣に

アラバ、Sラモス、ピケ、アスピリクエタ、その前にブスケツ

中盤より前はもちろん、DFラインにも細かくパスをつなぐスタイルにマッチする選手が奇跡的に揃い

ショートパス主体の「チキタカ」で世界を斡旋するスペイン代表が

ファン・ハールロッベン率いるオランダのショートカウンターを前に、まさかの1-5で敗れ去った試合。

 


SPAIN v NETHERLANDS (1:5) - 2014 FIFA World Cup™

 

このとき世界のフットボールの潮流は、間違いなくスペイン代表とグアルディオラバルセロナが中心となり、細かくパスをつなぐポゼッションサッカーに傾いていました。

 

けれどこのスペインの衝撃的な敗戦を機に、一気にショートカウンター全盛の時代になります。

いかにプレスをはめ、手数をかけずに相手ゴールを陥れるか。バルセロナも中距離のパス能力に秀でたラキティッチを経由し多くボールが回るチームになっていますし、ポゼッションサッカーの標榜者・グアルディオラでさえ、チームの中核にはショートカウンターに適性をもつスターリングとデブライネを揃えます。

現在のリバプールもこのスタイルの延長線上にあるといえますね。

 

 

もうひとつは、レアルマドリーのホーム、ベルナベウで行われた2005年のクラシコレアルマドリー×バルセロナ

 

バルサ伝統的な4-3-3のシステムの左WGを務めるロナウジーニョが圧倒的なプレーを披露し、

ベッカムジダンを擁し、サルガドとSラモス、GKにはカシージャス立ちはだかる

「銀河系」マドリーを0-3で沈めた試合。

 


Real Madrid vs FC Barcelona 0-3 Highlights 2005-06 HD 720p (English Commentary)

 

 

ここ15年、世界のビッグチームはことごとく「WGスペシャルな選手を配置した4-3-3」を採用していました。

メッシのバルセロナCロナウドレアルマドリーを筆頭に、サラーのリバプールネイマールPSGアザールチェルシー・・

 

この流れは2005エル・クラシコロナウジーニョがつくったものでした。

 

 

今回のアンフィールドの奇跡も間違いなくサッカー界の流れにおいて大きな意味を持つ一戦となったわけですが

これによって起きる大きな潮流の変化は

「モチベータータイプの監督の再評価」

ではないだろうかと思うのです。

 

ここ数年、大きな尊敬を集める監督はトップオブトップをグアルディオラとし、

その文脈で、テュヘルやマウロ・サッリ、ちょっと異色ではありますが、ビエルサなど

スペクタルなポゼッションサッカーの「戦術を構築する」タイプの監督でした。

 

一方で、モチベータータイプの監督が不当に評価されていた、とまでは言いませんが

雑誌なんかで監督の特集があるというと、たいていはペップ・グアルディオラ5レーンが取り上げられて

ピッチのプレーフィールドをどのように解釈するか、それにもとづいて選手はどう配置するか。

そういったことが中心的に語られていました。

 

一方で、モチベータータイプの監督の戦術や人柄、また「選手をマネージメントする具体的な方法論」などに

5レーンのような文字数が割かれることはありませんでしたし、スポットはあたりませんでした。

 

 

リバプール戦後、(かつての)スペシャル・ワン、モウリーニョがこんな総括を行っています。

 

 

「不可能なことはないと言うけれど、今日のような結果はだれも期待もしていなかっただろうね。

アンフィールドは不可能を可能にするための場所の1つだけど、この奇跡の中心には1つの名前がある。ユルゲンだ」

 

「これは戦術や哲学ではなく、心と魂、そして彼がこの選手のグループとともに生み出した素晴らしい結果だと思っている」

 

「彼らには素晴らしいシーズンを送ったにも関わらず、何も祝うものがない状態で(タイトルをなにひとつ獲得できず)シーズンを終えるリスクがあった。今は、ヨーロッパチャンピオンまで、あと一歩となっている」

 

「ユルゲンのリバプールでの素晴らしい仕事が、今日の結果になったのだと思う。

諦めないという彼のパーソナリティ、彼のファイティングスピリット、それを全ての選手が体現し、全力を尽くすことの表れが今日の結果になったのだと思っている」

 

「起こった全てのことは、ユルゲンのメンタリティに関することだ」

 

https://qoly.jp/2019/05/08/mourinho-on-liverpool-v-barca-iks-1

 

 

そう、戦術はもちろん素晴らしかったわけですけれど、主要因はそれではなく

ユルゲン・クロップという指揮官がチームに植え付けたマインドがすべての要因であった、と。

 

リバプールがなぜバルセロナを相手にあの試合を演じきれたのか」を語るとき

サラーがいないことによりシャキリとオリギという献身的なトランジションを獲得したからだ、とか

ヘンダーソンを一列前でつかえるようなチーム事情になったからだ、とか、いろいろ言われますが

なんていうんでしょう、枝葉のはなしに聞こえますよね。

 

先輩は「ゲーゲンプレスのことを考えるとフィルミーノの不在は痛手でしかなかったんですよ」と言ってました。

 

リバプールバルセロナ相手にあの試合ができたのは、クロップのマネジメントによるものだ、

そう言い切りたいと思います。

 

そして今後のサッカー界のトレンドは、選手たちを自身の存在で鼓舞し、ファイティングスピリットみなぎるチームをつくり

それをマネジメントできる監督が評価されていく、そんな意味を持つ試合になったのではないかと感じます。

 

そう、監督におけるKPIが変わったのです。これは大きな変化となるでしょう。

 

 

 

不可能であっても信じることはできる

 

 

あと、あの試合からの個人的な大きな学びとして。

クロップは2ndレグ前の記者会見で、こんなことを言っていました。

 

「目標は試合に勝利する事、突破するチャンスがあるなら、もちろん我々はそれを目指す。シーズン通じて我々は素晴らしいパフォーマンスを見せているし、今シーズン我々が続けてきた全ての事を祝う必要があるね。」

 

「しかし、世界最高のストライカーの2人は明日プレーしないなかで、90分間で4ゴールを決めるのは非常に困難な任務だ。もしそれができればパーフェクトだ。できなくても、可能な限り美しく散ることを目指して戦うよ」

 

 

 

メッシという異次元の存在に、ハプニング的に3失点を喫した1stレグ。攻撃においてはバルサの守備陣の前に無得点。チームのスター、サラーを欠き、攻守のキーマン、フィルミーノを欠く。

 

この状況で4-0の勝利もしくは5点差以上での勝利を「絶対に可能だ」と盲信的に思う人がいたなら、それは、そうですね、控えめに言って、できるだけ人生で接点をもちたくないタイプのそれですね。

 

 

クロップは自らのミッションを

「限りなく不可能に近い」と認識していたのだと思う。けれど、諦めることはなかった。

 

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この姿勢は大きな学びだなあと感じます。

 

 

不可能であること、しかし信じることは両立するんだ、と。

 

 

どんなに不可能と思える状況であっても、希望を捨てず、最善を尽くすこと。仲間に貢献することを忘れないこと。最良を目指して足を動かし続けること。

 

そのことをリバプール11人は教えてくれたと思いますし、あの奇跡を目にした、アンフィールドにいたリバプールサポは同じ気持ちだったんじゃないかと想像します。

 

素晴らしきリバプール!こんな歴史が加わり、クラブのDNAとなることがうらやましくて仕方がない。

いやあ、やっぱりフットボールは人生だ!そして試合をこんなふうに振り返って考えられるの幸せやなあ。ええ会社に入った。

 

さあ明日は5連敗中のヴィッセル、鹿島戦です!

ふ、不可能は・・な・・・